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一般・消化器外科・胃腸科

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薬物療法について

薬物療法とは、点滴や飲み薬などの薬剤を用いて「がん」を治療することを言います。
薬物療法には、がん細胞の増殖を抑えたり、再発や転移を防いだりする効果があります。
手術や放射線治療が、がんに対する直接的・局所的な治療であるのに対し、薬物療法ではより広い範囲に治療の効果を及ぼすことが期待できます。

オキサリプラチン(L-OHP)など新規抗癌剤、アバスチン(bev)などの分子標的治療薬やテセントリクなどの免疫チェックポイント阻害剤の導入により、最近10年で格段の進歩を遂げてきました。
治療成績は大きく延び、薬物療法は新しい時代を迎えたといえます。

しかし、薬物療法だけでは胃・大腸・肝臓などの癌を治しきることはできませんが、がんを小さくしたり、進行を遅らせたりすることにより、その患者さんの生存する期間を延長させる効果があることが示されています。

そこで、肝臓・胃・大腸・胆道・膵臓などの消化器がん手術を行っている当院では、切除不能進行・再発症例に対して薬物療法を施行することにより、転移巣の大きさ・数を改善させて、ラジオ波焼灼療法を併施し、肝切除を安全に行うといった集学的治療にも積極的に取り組んでいます。

薬物療法に使用する薬剤

  • 抗がん剤
    がん細胞の遺伝子(DNA)の働きを妨げることなどで、がん細胞の増殖を抑えたり、死滅させる働きがあります。一方で、正常な細胞の働きも妨げてしまうため、様々な副作用があらわれます。
  • 分子標的薬
    がん細胞だけが持つ特徴などを目印にして、がん細胞だけを攻撃する薬です。従来型の抗がん剤にみられる副作用は少ないですが、分子標的薬特有の副作用がみられます。
    大腸癌の化学療法には、切除不能な進行再発大腸癌に対する全身化学療法と、手術後の再発を予防するための補助化学療法があります。これらの抗がん剤治療には多くの方法がありますが、基本として広く使われているのがFOLFOX療法、FOLFIRI療法やXELOX療法です。最近では分子標的薬も使うことができるようになり、化学療法が一段と効くようになってきました。

(例)mFOLFOX6+分子標的薬療法

治療スケジュール

抗がん剤
・レボホリナート 200mg/m²/2h
・フルオロウラシル 400mg/m²
・フルオロウラシル 2,400mg/m²/46h
・オキサリプラチン 85mg/m²

分子標的薬
・ベバシズマブ 5mg/kg

当施設で行っているmFOLFOX6+ベバシズマブ療法の流れについて紹介します。
まず、ベバシズマブ(5mg/kg:体重1kg当たり)を30~90分かけて点滴します。次に、オキサリプラチン(85mg/m²:体表面積1m²当たり)とレボホリナートカルシウム(200mg/m²)を同時に2時間かけて点滴します。次は、フルオロウラシル(400mg/m²)を注射(急速静注)します。続いて、フルオロウラシル(2,400mg/m²)を約46時間かけて点滴します。この持続点滴には、携帯型ポンプを用います。
これが1コースで、これを2週間ごとに行います。

(例)FOLFIRI+分子標的薬療法

治療スケジュール

抗がん剤
・レボホリナート 200mg/m²/2h
・フルオロウラシル 400mg/m²
・フルオロウラシル 2,400mg/m²/46h
・イリノテカン 150mg/m²

分子標的薬
・ベバシズマブ 5mg/kg

次にFOLFIRI+ベバシズマブ療法の流れについて紹介します。
まず、ベバシズマブ(5mg/kg:体重1kg当たり)を30~90分かけて点滴します。次に、レボホリナートカルシウム(200mg/m²:体表面積1m²当たり)とイリノテカン(150mg/m²)を同時に2時間かけて点滴します。次は、フルオロウラシル(400mg/m²)を注射(急速静注)します。続いて、フルオロウラシル(2,400mg/m²)を約46時間かけて点滴します。これが1コースで、これを2週間ごとに行います。

(例)XELOX(CapeOX)+分子標的薬療法

治療スケジュール

抗がん剤
・オキサリプラチン 130mg/m²
・カペシタビン 2,000mg/m²

分子標的薬
・ベバシズマブ 7.5mg/kg

次に、XELOX+ベバシズマブ療法の流れについて紹介します。
まず、ベバシズマブ(7.5mg/kg:体重1kg当たり)を30~90分かけて点滴します。次に、オキサリプラチン(130mg/m²:体表面積1m²当たり)を2時間かけて点滴します。カペシタビン(2,000mg/m²)は1~14日目まで毎日(朝食後・夕食後)内服し、1週間休薬します。これが1コースで、これを3週間ごとに行います。

抗がん剤の副作用

抗がん剤は、分裂して増殖しているがん細胞に作用する薬です。
正常な細胞でも、分裂速度の速い血液細胞や口腔・胃腸粘膜、毛根の細胞などは、抗がん剤の作用の影響を受けやすいです。
そのため、副作用は高い頻度で起きる、といっても過言ではありません。副作用の程度には個人差がありますが、副作用を抑える薬や様々な工夫でなるべくこれを軽減するように努力をします。
副作用には自覚症状のないものもあります。抗がん剤治療を行っている間は、血液などの定期検査を実施して、副作用の早期発見に努めます。さらに、がん細胞にも抗がん剤に対して強いものと弱いものがあり、効果に個人差があります。副作用が強く、治療を行うことが危険な場合もあります。
現在、消化器がんに使用できる抗がん剤には何種類もあり、各々特性が異なりますので、不都合が生じた場合(がんの進行や強い副作用など)には抗がん剤の変更が必要です。
副作用と思ったら、医師や看護師に遠慮なく申し出てください。
抗がん剤の変更や減量・中止などについて相談させていただきます。

治療効果

治療効果の評価は主にCTを使用し、腫瘍マーカー(CEAなど)も画像評価の補助的診断に用います。
効果判定として画像上の腫瘍径の変化の評価が基本となります。判定結果は、がんが分からなくなった「完全奏効(CR:complete response)」、大きさが30%以上縮小した「部分奏効(PR:partial response)」、20%以上増大した「進行(PD:progressive disease)」、30%未満の縮小から20%未満の増大を「安定(SD:stable disease)」の4つに分類されます。
治療効果判定のための検査間隔としては、病状に応じて2~4ヵ月ごとに行っています。

皮下埋込型中心静脈ポート

がんの治療法の1つとして、化学療法(抗がん剤投与)がありますが、各種がんに対してさまざまな薬剤が開発され、治療成績も向上しています。
内服の抗がん剤であれば、患者さんの行動制限など身体的負担は少ないのですが、注射による投与が必要な場合が多く、長期にわたる治療では血管に治療針を刺すのが次第に困難となり、苦痛を伴うことが課題とされてきました。この問題に対して考案されたのが皮下埋込型中心静脈ポートです。
皮下埋込型中心静脈(CV)ポートは、高カロリーの輸液(中心静脈栄養)の投与ルートとして使われたり、近年では抗がん剤の投与ルートとして広く使用されています。

CVポートの適応

  1. 抗がん剤を投与する機会が多い
  2. 静脈が細く点滴をすることが困難
  3. 薬剤が漏れやすい
  4. 薬剤を投与する時間が長い
  5. 高カロリーの薬剤を投与する
  6. 静脈炎を起こしやすい薬剤を投与する

などが適応となります。

皮下埋込型中心静脈ポートの留置

CVポートは、100円硬貨程度の大きさの本体と薬剤を注入するチューブ(カテーテル)により構成されます。通常は、首の血管からカテーテルを挿入し、右または左の胸の皮膚の下に本体を埋め込みます。
カテーテルの先端は、心臓近くの下大静脈に留置されます。CVポートの表面にはセプタムと呼ばれる圧縮されたシリコンゴムがあり、ここに針を刺して薬剤を投与します。
薬剤はCVポート本体とカテーテルを経て血管内に投与されます。

皮下埋込型中心静脈ポートの利点

  1. 皮膚の上から針をポートに穿刺するだけで、確実に薬剤を静脈内に投与することができます。
    一方、従来から使用されている末梢静脈(手や腕の血管)の場合は、血管が細く弱いと針を何度も刺し直す場合があり苦痛を伴います。
  2. 外見上、埋め込んだ部分は目立たず、通常生活に支障はありません。
  3. 両腕を自由に動かすことができるので、薬剤投与中に様々なことができます。
    一方、末梢静脈留置針使用の場合は、腕を動かすと薬剤の漏れなどの危険性があるので、腕の動きなど行動が制限されます。
  4. CVポートの先端は太い血管に留置しているので、薬剤を投与するときに刺激の強い薬剤を投与しても静脈炎が起こる可能性が少なくなります。
  5. 長時間薬剤投与する場合、入院が必要なことが多いですが、CVポート使用であれば体内に埋め込んでいるので、自宅で治療を行うことも可能な場合があります。
  6. 管理によりCVポートの感染率は低く、長期間使用することができます。

などの点が挙げられます。

皮下埋込型中心静脈ポートの欠点

  1. 留置するには30分程度の小外科手術が必要です。
  2. 下記の術後合併症が起こる可能性があります。
    気胸、血胸(0.2~0.5%)
    針で肺を傷つけてしまった時に、空気が漏れて肺がしぼんでしまう状態(気胸)になることがあります。肺を広げるために胸に管を入れて治療を行う場合があります。
    動脈損傷、血腫、空気塞栓(0.3%)
    静脈と並んで走行する動脈が傷つき、出血することがあります。
    血栓(0.7%)カテーテルの周囲に血栓が付着したり、静脈が血栓で狭くなることがあります。
    感染(3~4%)
    細菌や真菌(カビ)の感染症が起こることがあります。カテーテルを抜去して、抗生物質を投与して治療します。
    カテーテル、ポート位置異常・離断(0.2~2.0%)
    カテーテル先端が別の部位に入ってしまうことや断裂してしまうことがあります。
    アレルギー(1.0%)

などが挙げられます。

肝細胞癌への薬物療法

薬物療法は、外科切除や肝移植、穿刺局所療法、TACEなどが適応とならない進行肝細胞癌で、PS良好かつ肝予備能が良好なChild-Pugh分類A症例が適応となります。

2009年に初めて分子標的剤のソラフェニブ(ネクサバール®)が承認されて以来、
2017年 レゴラフェニブ(スチバーガ®)
2018年 レンバチニブ(レンビマ®)
2019年 ラムシルマブ(サイラムザ®)
2020年 カボサンチニブ(カボメティックス®)
2021年12月現在、アテゾリマブ(テセントリク®)+ベマシズマブ(アバスチン®)が承認され、切除不能な肝細胞癌に対する1次治療として位置づけられています。

薬物療法

現在、肝細胞癌には6種類の治療薬剤が使用できます。アテゾリマブ(テセントリク®)+ベマシズマブ(アバスチン®)の併用が、切除不能な肝細胞癌に対する1次治療として位置づけられています。
2次治療としてはレンバチニブ(レンビマ®)またはソラフェニブ(ネクサバール®)が推奨され、3次治療はレゴラフェニブ(スチバーガ®)、ラムシルマブ(サイラムザ®)、カボサンチニブ(カボメティックス®)および2次治療で使用されなかった薬剤が推奨となっています。

肝細胞癌の薬物療法

アテゾリマブ(テセントリク®)+ベマシズマブ(アバスチン®)併用療法とは?

アテゾリマブ(テセントリク®):免疫チェックポイント阻害剤
ベマシズマブ(アバスチン®):分子標的薬

免疫は体の中の異物を除去するのに有効な仕組みですが、がん細胞を攻撃する免疫細胞の『PD-1』と、 がん細胞が出している『PD-L1』がくっつくと、免疫細胞ががん細胞を攻撃できなくなります。この機構を京都大学の本庶佑先生が解明し、2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞を攻撃する免疫細胞にブレーキをかけてしまうPD-1あるいはPD-L1にくっついて、ブレーキを外し、免疫細胞の働きを強めて、がん細胞を攻撃できるようになります。

治療スケジュール

(例)アテゾリマブ(テセントリク®)+ベマシズマブ(アバスチン®)併用療法

免疫チェックポイント阻害剤
・アテゾリマブ:1,200mg

分子標的薬
・ベバシズマブ:15mg/kg

当施設で行っているアテゾリマブ+ベバシズマブ併用療法の流れについて紹介します。
アテゾリマブ(1,200mg)を30~90分かけて点滴します。次に、ベバシズマブ(15mg/kg:体重1kg当たり)を30~90分かけて点滴します。これを1コースとして3週間ごとに行います。

症例:61歳 男性

20XX年11月に肝細胞癌に腹腔鏡下肝S6切除(図)、術1年5ヶ月後、残肝再発に対し腹腔鏡下再肝S6切除、2年2ヶ月後に肝S3、S4ラジオ波焼灼療法を施行。その後、2年3ヶ月後に骨転移を認め放射線療法、2年4ヶ月後には多発肺・肝再発に対し、アテゾリマブ+ベバシズマブ併用療法を開始。

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